新型コロナウイルス感染症の影響による定時株主総会の開催について

新型コロナウイルス感染症の影響による定時株主総会の開催について


今回は、昨今の新型コロナウイルスの流行下における会社の定時株主総会の開催について解説をさせていただきます。

毎年、5月~6月にかけては、大手企業も含めた株式会社の定時株主総会が相次いで開催されますね。

国税庁の統計によれば、約20.5%の法人が3月末決算を採用しており、これらの会社の定時総会の開催時期が5月~6月となるため、この時期が総会ラッシュとなる のです。

しかし、緊急事態宣言が発令された現在の状況下では、定時株主総会を従来通り開催するのは困難です。

このような場合、定時株主総会を延期しても法律上問題ないのでしょうか?

結論としては、延期しても問題ありません。

そもそも、なぜ決算期末日の翌日から3か月以内に定時株主総会を開催することが多いのかというと、多くの法人の定款において、定時株主総会は、毎事業年度末日の翌日から3か月以内に招集する旨の定めがあるからです。

会社法上は、定時株主総会の開催時期に関しては明確な期限は定められておらず、 「毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない(会社法296条1項)」とされているのみです。

ではなぜ3か月以内に招集する定款の定めが設けられているのでしょうか?

それは、決算期の末日時点(基準日といいます。)の株主を定時株主総会において権利行使できる株主とする定めを併せて定款に設けているからです。

基準日(会社法124条)は、会社の事務処理の便宜のため、株主の権利行使 にあたり、一定の日を定めて、その日現在の株主名簿に記載されている株主(基準日株主)をその権利を行使できる株主と取扱うものですが、基準日株主が行使することができる権利は、基準日から3か月以内に行使するものに限られています(会社法124条2項)

したがって、決算期末日を基準日と定めて、その日時点における株主に、定時株主総会における議決権行使をさせることとするためには、定時株主総会を決算期末日の翌日から3か月以内に開催する必要があるのです。

そうすると、延期の可否は、これらの定款の定めをどう解釈するかという話となります。

法務省の見解によれば、定時株主総会の開催時期に関する定款の定めは、天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合 にまで、その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではないと解されています。

したがって、今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後、合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。

すなわち、開催を延期したとしても定款違反になりません。

基準日についての定款の定めについても、開催すべき時期に、開催ができないときは、あらためて別に基準日を設定すればそれで足ります。
(新たに基準日を定めるときは官報公告等でその旨を株主に周知します。)

以上は法務面からの話ですが、税務面からも延期の可否は検討する必要があります。

決算末日から3か月以内に定時株主総会を開催しているのは、法人税等の申告期限の要請もあるためです。

法人税の申告期限は、原則として、各事業年度終了の日の翌日から2か月以内とな っていますが、申告等ができないやむを得ない理由がある場合には、法人の申告書等を作成、提出することが可能となった時点まで、申告・納付期限を延長するこ とができる旨、国税庁より見解が出ています。

このやむを得ない理由ですが、新型コロナウイルス感染症の影響による場合に は、柔軟に認められるようです。

国税庁が挙げている一例としては、例えば、法人の役員や従業員等が感染したよう なケースだけでなく、社員に在宅勤務者や外出を控えている方がいることにより、 通常の業務体制が維持できないことや、事業活動を縮小せざるを得ないこと、 取引先や関係会社においても感染症による影響が生じていることなどにより決算作業が間に合わず、期限までに申告が困難なケースなどがあります。

また、顧問税理士が感染症に感染した場合も含まれます。

したがって、事態が収束してから、申告し納付すれば税務的にも問題がありません。

なお、延長申請の方法は、申告書提出の際に、申告書の右上余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と記載するだけでよく、事前に別途、期限延長の申請書等を提出する必要はありません。

決算作業自体が問題なく行えるのであれば、密集した会合を開くことが障害ですから、延期以外の方法として、開催方法を工夫するという方法もあるでしょう。

現行法下での取りうる手段としては、書面決議(会社法319条)、委任状出席(会社 法)、書面投票、電子投票(会社法298条1項3号、4号)などがあります。

それ以外の方法としては、オンライン上で完全バーチャルで開催するというアイデアもあり得ますが、現行法下では認められているとは言い難く、検討が必要です。

これらの論点についてご質問等あれば是非ご相談いただければと思います。

本日は、新型コロナウイルス感染症の影響による定時株主総会の延期は可能というお話でした。

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