トリニティの最新事業承継 事例のご紹介④

トリニティの最新事業承継 事例のご紹介④

「会社分割を活用した不動産M&Aの手法」をテーマに、当社で現在取り組んでいる会社分割を活用した最新の事業承継スキームを、実際の事例を用いてお伝えしております。

 会社分割を活用した不動産M&Aの手法
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 第1回 事例紹介とご提案内容の比較、検討
 第2回 適格分割の要件と法務・税務論点1
 第3回 適格分割の要件と法務・税務論点2
 第4回 その他の論点とまとめ
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今回は第4回、最終回として、「その他の論点とまとめ」として、会社分割を活用した不動産M&Aのその他の法務論点をまとめてお伝えします!

事例のおさらい(1)事例の概要


第1回でご紹介しましたこの度の事例を、改めておさらいします。

「有限会社A」
・この度の事業承継の対象となる会社。
・発行済株式の総数は400株。
 株主の内訳は、母200株、長女100株、二女100株。
・東京都内で戦後から地域密着型の事業を展開していた。
・有限会社A名義で、2箇所の不動産(X地とY地)を保有。
・X地にあった事業所は25年程前に廃止し、同地に会社名義で7階建の収益マンションを建築した。
・Y地の事業所は、自宅兼賃貸物件として所有している。
 →賃貸物件には空室もあるが、積極的に入居者の募集を行っていない。
  この建物に母と二女が住んでいる。
・有限会社Aから母と二女に対して給与が支給されている。

「亡父」
・有限会社Aの創業者。2年前に他界。
・亡父の遺産分割、相続手続きは済んでおり、その遺産分割の協議により、100%保有していた有限会社Aの株式は、母、長女、二女が法定相続割合に応じた株式数で保有。

「母(80歳)」
・有限会社Aの現在の代表取締役。
・会社の持株割合50%(200株)。
・Y地の建物に居住。判断能力あり。
・子供たちになるべく負担をかけたくないと考え、有限会社Aの所有する不動産(特にX地)を売却してもよいと考えている
・一方で、父と一緒に長年住み続けたY地から離れたくない、という気持ちがある。

「長女(55歳)」
・既婚。母とは別の住まい。
・持株割合25%(100株)
・長女は現状、有限会社Aから金銭的なメリットを受けていない。
・不動産(特にX地の土地と建物)を売却し、その売却益を分けて欲しいと母と二女に主張

「二女(50歳)」
・この度のご相談者
・独身。Y地にて母と同居
・持株割合25%(100株)
・長女と二女は、性格のソリが合わないため、一緒に会社を経営できるような関係ではない
・また、二女は自身で有限会社Aの事業を運営する意思はなく、会社の今後について どうすればよいか自分では判断できず、当社への相談に至る

事例のおさらい(2)ご提案した内容


ご家族の感情面(母はY地を手元に残したい)と考え得る各スキームの費用の比較から、
【有限会社Aを、Y地を所有する新会社に税制適格で会社分割をし、X地を所有する有限会社Aのみを売却する】スキームを採用しました。
スキームの詳細
1)有限会社Aを税制適格で分割型会社分割によりY地を所有する新会社を設立する。(適格分割)
2)有限会社Aを(M&Aにより)売却する。
3)新会社にてY地の不動産を所有し、新会社で事業を継続する。

スキームの実行に併せて考えられるリスクと対策


上記スキームを実行するにあたり、高齢である母の認知症発症による意思能力の喪失や突然の死亡によってスキームが頓挫してしまうリスク が考えられます。
これらのリスク対策として、上記スキームに併せて下記の提案を考えました。
①認知症対策として家族信託

②相続対策として遺言(任意後見の併用)

①は、母がまだ判断能力のあるうちに、母と受託者(この事例であれば上記スキームを共に実行していく二女)との間で、母が認知症に なったとしても、受託者の判断においてこれらの権限を行使できるよう、母を受益者として、母所有の株式について信託契約を締結しておきます。

これにより、信託の受託者により受益者である母のためにこの度のスキームの実行を継続できる状態を作っておくことが可能です。

ところで、この度のスキームは、分割型分割により、分割法人と分割承継法人それぞれと同一の者の間に完全支配関係があり、分割後その同一の者と分割承継法人との間に完全支配関係が継続することが見込まれている(支配率100%)パターンの適格分割を行います。
※前回(第3回)で解説した「支配率100%グループ内の適格分割」。

この「支配率100%の分割型分割による適格分割」の要件には、「分割法人と分割承継法人それぞれと同一の者の間に『完全支配関係』があること。」(法人税法第2条第12号の9)がありますが、この「完全支配関係」について、分割法人及び分割承継法人の株式の保有状況が受託者において判断されるのか、それとも受益者において判断されるのかが判然としない、という問題がありました。

適格分割の要件の一つにある前述の法人税法上の「完全支配関係」とは、「一の者が法人の発行済株式等の全部を(中略)保有する関係」とされております。

この「保有」という文言が「支配」関係を意味するものと考えると、原則的には実際に株式を所有し、株式の権限(議決権の行使等)を行使できる者を指すものと考えられ、信託の受託者がこの適格分割の要件である「完全支配関係」を満たす株主として考えられます。

しかし、法人税法第12条では、「信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみな」すと規定します。

法人税法上の所得の帰属を規定したものですが、株式を信託財産とした場合のその保有状況が受益者にあるようにも読み取れます。

この件について、株式の保有の状態を支配要件と捉えて受託者において考えるのか、所得の帰属と捉えて受益者において考えるのか、現在のところ明確な結論は出されていない状況です。

そのため、事例のケースでは、認知症対策として家族信託のご提案を検討こそしたものの、前述のとおり適格分割による会社分割を行うに際し、その適格分割の要件を満たすかに疑義が生じるため、別の手段として後述する②のご提案をすることにしました。

②は、母の相続対策として遺言の作成、認知症対策として任意後見契約の締結のご提案です。

もし、この度のスキーム実行の途中に、母が死亡してしまった場合、母が遺言を作成していないと、有限会社Aの50%の株式は、長女と二女に各2分の1ずつ承継されることになります。

現在の有限会社Aの株主構成が母50%、長女25%、二女25%の株式所有割合であるため、母の相続が発生することで、長女と二女が有限会社Aの株式をそれぞれ50%ずつ所有することになり、姉妹の総意で会社分割や株式売却の手続を進めていくことになります。

前述【1.】のとおり、長女と二女は性格の不一致によりソリが合わず、ご相談者である二女は長女と意見を併せてこのスキームを進めていくことに乗り気ではありませんでした。

そのため、スキームを実行していく中で、母の相続対策として、母の所有する株式を二女に承継させる旨の遺言を作成しておくことを母にご提案しました。

また、スキームの実行途中で母が認知症等により判断能力が喪失する可能性も考慮して、母が判断能力を喪失した場合であっても、任意後見人が株式の議決権行使等をできるように代理権を付与した内容の任意後見契約を、二女と締結しておくこともご提案しました。

以上、これまで4回にわたり、会社分割を活用した不動産M&Aの手法についてお伝えしました。

※上記内容含めこれまでの内容は、法人税法をはじめ関係法令上から読み取れる内容を元に構成しております。
この度の事例では、この事業承継スキームの構築から事案を担当する税理士の先生と共に行っており、実際の税務対応は、その税理士の先生にて行っております。

不動産事業のM&Aの手法として会社分割、特に税制上の適格分割を活用するケースはまだ数が少ないですが、税務上でのメリットもあり、会社の事業承継での活用が見込まれます。

この度ご紹介した事例のように、不動産の売却だけでなく会社自体を売却することがお客様への安心、安全に繋がる承継方法であるケースはあるはずです。

本記事について疑問点等がございましたら、お気軽にお問い合わせください

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