トリニティの最新事業承継 事例のご紹介②

トリニティの最新事業承継 事例のご紹介②

前回から4回にわたり、「会社分割を活用した不動産M&Aの手法」をテーマに、当社で現在取り組んでいる会社分割を活用した最新の事業承継スキームを、実際の事例を用いてお伝えしております。

 会社分割を活用した不動産M&Aの手法
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 第1回 事例紹介とご提案内容の比較、検討
 第2回 適格分割の要件と法務・税務論点1
 第3回 適格分割の要件と法務・税務論点2
 第4回 その他の論点とまとめ
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今回は第2回として、「会社分割を適格分割で行う場合の要件と法務・税務論点1」としまして、「なぜ適格分割による会社分割を利用した不動産M&Aのスキームを行うか?」についてお伝えいたします!


今回は第2回として、「会社分割を適格分割で行う場合の要件と法務・税務論点1」としまして、「なぜ適格分割による会社分割を利用した不動産M&Aのスキームを行うか?」についてお伝えいたします!

事例の紹介(1)事例の概要


第1回でご紹介しました事例を、改めておさらいします。

(1)事例の概要
「有限会社A」
・この度の事業承継の対象となる会社。
・発行済株式の総数は400株。
 株主の内訳は、母200株、長女100株、二女100株。
・東京都内で戦後から地域密着型の事業を展開していた。
・有限会社A名義で、2箇所の不動産(X地とY地)を保有。
・X地にあった事業所は25年程前に廃止し、同地に会社名義で7階建の収益マンションを建築した。
・Y地の事業所は、自宅兼賃貸物件として所有している。
→賃貸物件には空室もあるが、積極的に入居者の募集を行っていない。
この建物に母と二女が住んでいる。
・有限会社Aから母と二女に対して給与が支給されている。

「亡父」
・有限会社Aの創業者。2年前に他界。
・亡父の遺産分割、相続手続きは済んでおり、その遺産分割の協議により、100%保有していた有限会社Aの株式は、母、長女、二女が法定相続割合に応じた株式数で保有。

「母(80歳)」
・有限会社Aの現在の代表取締役。
・会社の持株割合50%(200株)。
・Y地の建物に居住。判断能力あり。
・子供たちになるべく負担をかけたくないと考え、有限会社Aの所有する不動産(特にX地)を売却してもよいと考えている
・一方で、父と一緒に長年住み続けたY地から離れたくない、という気持ちがある。

「長女(55歳)」
・既婚。母とは別の住まい。
・持株割合25%(100株)。
・長女は現状、有限会社Aから金銭的なメリットを受けていない。
・不動産(特にX地の土地と建物)を売却し、その売却益を分けて欲しいと母と二女に主張。

「二女(50歳)」
・この度のご相談者。
・独身。Y地にて母と同居。
・持株割合25%(100株)。
・長女と二女は、性格のソリが合わないため、一緒に会社を経営できるような関係ではない。
・また、二女は自身で有限会社Aの事業を運営する意思はなく、会社の今後について どうすればよいか自分では判断できず、当社への相談に至る。

事例の紹介(2)ご提案内容の検討事項


お客様のご希望は次のとおり。
・有限会社Aが所有する不動産を売却したい。
・しかし、Y地を売却することには抵抗がある。
・できるなら、有限会社Aの事業(収益不動産の管理運営業務)を手放したい。

上記ご希望に沿うように、ご提案した内容は次の通りです。

1)有限会社Aを税制適格で分割型会社分割によりY地を所有する新会社を設立する。(適格分割)
2)有限会社Aを(M&Aにより)売却する。
3)新会社にてY地の不動産を所有し、新会社で事業を継続する。

なぜ適格分割による会社分割を利用した不動産M&Aのスキームを行うか


ではなぜ、前述のような適格分割により会社分割を行い、分割後の旧会社をM&Aにより売却するスキームで進めることにしたのか。

それは、検討したスキームごとの概算のコストを出した上で、適格分割による会社分割によりX地を残した有限会社A自体をM&Aにより売却するのが最もコストを抑え、お手元に資金を残せるスキームであったためです。

前回、
★ご家族の感情面の配慮
★ご提案するスキームごとの費用の比較(経済面の配慮)
に注意をしながら、以下の3つのスキームを検討したとご説明しました。
不動産を売却し、会社を手放すための方法としては、以下の3つが考えられました。
(1)会社自体を株式譲渡により売却する。
(2)会社所有の不動産を売却し、その後会社は解散・清算する。
(3)有限会社Aを、Y地を所有する新会社にに税制適格で会社分割をし、X地を所有する有限会社Aのみを売却する。
このうち、それぞれのコストを概算ながら比較すると、以下のとおりでした。

※不動産の売却価格を下記の時価とした場合の概算です。
X地:時価 2.5億円
(簿価 土地3000万円、建物1億円)
Y地:時価 2億円
(簿価 土地220万円、建物800万円)

(1)会社自体を株式譲渡により売却する場合 

有限会社Aの株式をM&Aでそのまま売却する場合、以下のコストが考えられます。

・株式売却にかかる株主個人の譲渡所得税
 →株式譲渡益に対して税率20.42%
 (復興特別所得税及び住民税含む)

有限会社Aの株式(時価評価で4億5000万円)全てを第三者に売却した場合、株主であるご家族に、その売却益の20.42%である「凡そ9189万円程」の譲渡所得税がコストとして生じる計算となります。

さらに、会社全てを売却に伴い会社の不動産も手放すことになるため、Y地はご家族のもとに残りません。 ※ご家族の感情面の配慮は適わないことになります。

(2)会社所有の不動産を売却し、その後会社は解散・清算する場合 

有限会社Aが所有する不動産全てを売却し、その後、会社を解散・清算する場合、以下のコストが考えられます。

・不動産売却に伴う売却益にかかる法人税等(法人住民税等を含む。)
 →売値から簿価を引いた売却益に対する法人税課税。(表面税率にて検討。)

・会社の解散・清算にかかる株主へのみなし配当による所得税(+復興特別所得税)
 →総合課税(最大45%)の税率

全ての不動産を合計4億5000万円で売却できたとして、上記2種の課税合計額を、【概算】で算出したところ、「凡そ2億6550万円程」となりました。

・会社の解散・清算手続にかかる費用(登記、清算事業年度に係る決算申告等)
 ※「凡そ100万円程」と見立てました。

上記のコストの合計が、「凡そ2億6650万円程」と、3つのスキームの中で最大となり手元に残る金額の割合も一番低く、また、不動産を全て手放すことになり、ご家族の感情面の配慮にも適わないことになります。

(3)有限会社Aを、Y地を所有する新会社に税制適格で会社分割をし、X地を所有する有限会社Aのみを売却する。 

この度ご提案した、本スキームにおいてのコストは以下のとおりとなります。

・売却するのはX地を所有する有限会社A。

・Y地は会社分割により新会社に移す。

・会社分割にかかるコストとして、「凡そ1000万円程」を想定。
 →会社分割による登記にかかる登録免許税、会社分割の手続を担当する専門家(司法書士、税理士等)の費用を含みます。
 →なお、不動産取得税については、地方税法上の適格分割の要件を満たすことで非課税措置を取ることができる場合がございます。(第4回でご説明予定。)

・会社分割後、有限会社AをM&Aにより売却する場合の株式の売却益にかかる株主への譲渡所得税(税率20.42%)
 →売却価格が凡そ2億5000万円として、その20.42%の「凡そ5105万円程」。

上記のコストの合計が、「凡そ6105万円程」と、3つのスキームの中で最も低いものとなりました。
また、Y地を会社分割により設立する新会社に移し、新会社でY地の管理を継続することで、ご家族の感情面の配慮にも適います。

なお、このスキームを行うためには、前提として「適格分割」による会社分割を行うことが必要です。

この適格分割(この度は分割型分割によります)によって会社分割を行うと、分割会社、新設分割承継会社及び分割会社の株主について会社分割による課税が生じないため、コストを抑えることができます。

適格分割とは、法人税法第2条第12号の11に規定される要件を満たした会社分割のことです。

※今回は、分割型分割で、分割法人と分割承継法人それぞれと同一の者の間に完全支配関係があり、分割後その同一の者と分割承継法人との間に完全支配関係が継続することが見込まれている(支配率100%)適格分割を前提としております。適格分割の要件の詳細については、次回の記事にてお伝えします。

法人税法上の適格分割の要件を満たした場合、会社分割により事業を承継した会社(承継会社:この度は新設分割のため新設分割承継会社)は、分割して事業を移す会社(分割会社)からその会社に移転した資産及び負債を、新設分割承継会社が帳簿価格(簿価)で引き継ぐことができます。(法人税法第62条の2第2項)

また、分割会社の株主が新設分割承継会社から交付を受ける株式の価格も、承継会社が引き継いだ資産及び負債の帳簿価格を基礎として算出された額により取得することになります。(法人税法第62条の2第3項)

これにより、適格分割による会社分割では、分割される会社(この度の事例では有限会社A)の資産と負債が、そのまま分割会社と同じ株主構成の承継会社に引き継がれるため、会社分割による分割会社の法人税、分割会社の株主の所得税が生じないことになります。

よって、会社分割により課税されるものがないため、他のスキームよりコストは抑えられることになります。
以上から、コストが抑えられ、かつY地を手放したくないとのご家族のご要望にも応えられる(3)のスキームを採用することになりました。

以上、今回は「なぜ適格分割による会社分割を利用した不動産M&Aのスキームを行うか?」についてお伝えしました。

※上記内容は、法人税法をはじめ関係法令上から読み取れる内容を元に構成しております。
この度の事例では、この事業承継スキームの構築から事案を担当する税理士と共に行っており、実際の税務対応は、その税理士にて行っております。

疑問点等がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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